仕事・金・家族 5
しかし、これは異常だ、「君子、危うきに近寄らず」と何もしなかった。
だから、損はしていないのだが、今の世の中に釈然としない。
よくやるな、と思いながらも男は苦々しくほぞをかむ思いで、税理士の大漁話の締あくくりを思い出している。
「まあ、わたしのお客さまでもここまでこられたのは三人に一人。
いろいろ計画を立て、資金の段取りまで付けてもやめた人、踏み切れない人が大半でした。
まあ、最後は度胸のある人しかだめですね」夜風が頬に痛い。
男は頼りになりそうというか、塀の上を刑務所側には落ちないで、上手に歩いていきそうな税理士の顔を思い出している。
案内人が悪ければ、道に迷う。
今夜の面々は真っ当に生きているのだろうか。
いや、これは負け惜しみ、いらぬお節介だ。
男の胸には「この一年、この国の何かが変わった、何かが壊れた。
戦後、俺たちが夢中に働いている間に」との思いが消えないのだ。
時代が移った。
あの国鉄も電電公社さえも民営化してしまった。
「親方日の丸」も「寄らば大樹、の会社の丸抱え」もどこかに消えかけている。
まさに「自己責任」の時代のおとずれを予感させそうな感じですね。